はいさい。秋葉令です。
 ASD&ADHD併発であるわたし(たち)にとっての人生の課題といえば、とにかく日々の作業で脳が頻繁にバグっちゃうことです。みなさんは靴下を片方履いた状態で、次にやることを決められずにぼんやりしている無職成人を見かけたら、どのようなアドバイスをしますか。「秋葉令! 靴下だ! 靴下を履け! なにをやっているんだ! お前がもう片方の靴下を履かないからすべての作業がストップしているのがわからないのか! なんだなんだ! オイ! 止まるな! お前の両手はなんのためにあるんだ! 履くんだよ! 靴・下・を!」そうおっしゃりたくなるのも無理のないことかもしれません。どうしてこんなに怠けているのだろう? 足をスッと入れれば済むことではないのか? スッといけばいいのに、それだけのことなのに、どうして秋葉令はスッをやらないのか?
 ここで、靴下を片方履いた状態で、もう片方の靴下を両手に持ったままフリーズしている秋葉令の脳内で起こっている思考の流れを再現してみましょう。
 
 ――「秋葉令! 靴下だ! 靴下を履け! なにをやっているんだ! お前がもう片方の靴下を履かないからすべての作業がストップしているのがわからないのか! なんだなんだ! オイ! 止まるな! お前の両手はなんのためにあるんだ! 履くんだよ! 靴・下・を!」
 
 おやおや。まったく同じことが起こっているようです。
 ここで秋葉令は、必ずしも靴下のことを忘れているわけではないんですね。靴下の履き方を忘れているわけでもない。スッとやれば靴下を履けることすら理解している――無職成人の知性はこのように複雑な発達を遂げている場合があります。
 しかし、ここで秋葉令が考えていることは、必ずしも靴下だけとは限りません。無職にだって用事があるのです。ここでは仮に、以下の四つのタスクを脳内に抱えているとしましょう。
 
 ・遠方の本屋に行くため電動アシスト自転車を充電する
 ・ALTSLUMという謎のサイトに「苦手な動作」の記事を書く
 ・22時にVTuberの新衣装お披露目会を見る
 ・洗濯をする

 どうですか? ADHDの多動がある人なら、これだけで若干の気持ち悪さがこみ上げてくる感覚がわかるんじゃないかと思います。まだわからない? たった四つではないかって? しかも、ひとつひとつは単純な用事で、労働と呼べるほどのものではないのでは、とおっしゃる? そうは問屋がおろし大根。多動ブーストの領域展開をお目にかけましょう。
 
 ――「えーっと、なんだっけ? 用事がいろいろと立て込んでて……充電と、謎サイトの原稿と、ええと、Vの衣装回。あと何かあったような?(……秋葉令! 靴下だ! 靴下を履け!……)あとは洗濯だ。でも曇り気味だしいいんじゃない? 溜まってったっけ? 溜まってはいるか。お小遣いもらわないといけないから、これから数日間は真面目に振る舞わないとな。まあ後回し。まずなにからやればいいんだ。自転車のバッテリー充電? あれは一瞬で済むし、差し込んどけば勝手に溜まるから最初にやったほうがいいのか。(……なにをやっているんだ! お前がもう片方の靴下を履かないからすべての作業がストップしているのがわからないのか!……)そうか、靴下を履かないと自転車のバッテリーをとりにいけないな。では早速……あれ? なんか忘れてるな。なんか忘れてるぞ。いま覚えないといけないことなんだっけ? 充電? いや、V! Vのお披露目会は夜だから……いや、これは別に喫緊の用事ではないし、覚えてさえおけば普通に間に合うけど、絶対にリアタイしないといけないから、常に覚えていないとまずいんだよな。Vはいい。VTuberは無職の心に平穏をもたらしてくれる……Live2Dの新衣装……Live2Dのことなにも知らないけどすごいと聞いている……ヤバい! ALTSLUMのこと完全に忘れてた。ALTSLUMに「苦手な動作」の記事を書くんだった。苦手な動作なあ。やっぱりADHDのことを書くんだろうな。自分がライターだったことも忘れつつあったからな。なんか書かないと、さすがに見捨てられ……でも、新人賞の原稿の締切だって近いのか。あれはプロットまでは組んだけど放置気味だし――(……なんだなんだ! オイ! 止まるな! お前の両手はなんのためにあるんだ! 履くんだよ! 靴・下・を!……)うるさいよ! わかってるよ! 靴下ぐらいわかってるんだよ。でもいま履いたらいま考えることぜんぶ忘れるんだよ! 大事なことがたくさんあるんだから。この考えていた流れが消えたら、靴下以外のことが全部できなくなるんだよ。えーっと……四つぐらいはやることがあって……あれ、洗濯って今日やるんだっけ?」
 
 この間ずっと、秋葉令は靴下を持ったままフリーズしています。
 呪術廻戦で、五条悟の領域展開〈無量空処〉を喰らった温泉おばけが「いつまでも情報が完結しない!」と言っていましたが、ADHD者の日常生活はまさにそんな感じです。脳が勝手に無限増殖するタスクに埋め尽くされて、常に五条の必殺を喰らっています。この連想爆発がいつ起こるかはわかりません。脳が勝手にやっていることなので、コントロールができないのです。多動ブーストは、優先順位をつけるのが微妙に難しい、四つぐらいのタスクがあると自動的に起爆します。さっきの思考の流れの例は、実際はごく簡単に書いたほうであって、手元にあるタスク以外のことに連想が流れていくと、もう元の流れに戻ることが非常に難しくなってしまいます。
 
 多動ブーストから逃れる術はあるのでしょうか。
 ありません。おわり。
 
 おわっている場合ではないので(とにかく、靴下は履かなければなりません)、秋葉令が行っている多動ブースト対策を紹介します。
 先程の思考の流れを見ればわかると思いますが、問題はタスク自体の作業の困難さよりも、タスクに関する連想が自動的に増殖して、脳のメモリを奪ってしまうことなのです(「君の敗因はメモリの無駄遣い♡」というわけです)。この、タスクに関するタスクのことを、わたしは「メタ・タスク」と呼んでいます。嘘です。ついさっき名付けました。
 メタ・タスクには、
 
 ・タスクのことを覚えつづけるタスク
 ・タスクの優先順位をつけるタスク
 
 おもにこの二つがあるでしょう。さらに、
 
 ・タスクの優先順位(メタ・タスク)を覚えつづけるタスク
 
 という、メタ・メタ・タスクもあるかもしれません。
 
 これらのメタ・タスクは、短期記憶の領域を圧迫します。わたしの場合、タスクが四つを越えたあたりから、タスクの記憶保持と優先順位の組合せの整理が難しくなり、それでフリーズして、他の作業ができなくなりがちです。特に、タスクの優先順位をつけるためには、タスク自体を脳内であれこれ並び替える必要がありますが、これが連想起爆のスイッチになることが多いようです。

 こんなときにオススメなのが、タスクを紙に書き出してみることです。
 できれば、優先順位もつけて並び替えましょう。
 
 1:靴下を履く(最優先!)
 2:自転車を充電する
 3:洗濯をする
 4:22時にVTuberの新衣装お披露目会を見る
 5:ALTSLUMという謎のサイトに「苦手な動作」の記事を書く
 
 これで靴下を履くことができます。スッ。
 タスクを紙に書き出すと、実際の作業量が減っているわけでもないのに、ものすごく楽になることがあります。「覚え続けないといけない」「最適な順序で並べ替えないといけない」「最適な順序ごと覚え続けないといけない」という、常に脳を圧迫してメモリを奪い続ける不可視のメタ・タスクから脳が解放されるからでしょう。メタ・タスクの存在を外部化すること、これが多動ブーストから逃れる鍵のひとつです。メモ帳は最高!
 メモ帳がどこにあるかわからない? 「「「メモ帳がどこに置いてあるか」をメモするメモ帳」がどこに置いてあるか」をメモするメモ帳がない? なるほど! わかる! 助けてくれ! うわ~~~~~~~~~!!!!!!
 はい。