温暖化による海面上昇により都市の大部分が海に覆われそれをきっかけにして世界中で戦争が勃発し人々が未来への希望を持つことができなくなってしまった世界、それが映画「レミニセンス」で描かれる未来だ。
ヒュー・ジャックマン演じる退役軍人のニックは戦争で共に戦ったワッツと共にある仕事で生計をたてていた。それは戦時中の尋問装置を利用して依頼人の精神を彼ら自身が見たい過去に深く没入させ追体験させるというものだ。
ある時ニックとワッツが検察に協力して麻薬王の部下の記憶を辿って犯罪の証拠を探している時、ニックはそこに一人の女性をみつける。それはニックの前から突然姿を消したかつての恋人メイだった。ニックはメイがいなくなってからというもの時間を見つけては自ら装置を使い過去のメイとの記憶に潜っていて生活に支障をきたすほどになっていた。メイが他人の記憶の中という形であっても再びニックの前に現れたことでニックは自分に限らず様々な人の記憶に潜って彼女を追っていく。
映画の中に流れる時間とは何だろうか。それは未来のSFの話だから未来であるとか歴史ものだから過去ということではない。それが現在であるなら私たちは映画に介入し、そして未来であるならストーリーを変えられるはずだ。しかしそんな事は出来ない。映画とは常に起きてしまったこと、過去なのだ。オレ達ができるのは眼の前で行われる(た)事に対してただ硬直して見つめることだけだ。ニックが過去にすがり何度も何度も自分の記憶に潜るさまはまるで現実から目をそらし映画のスクリーンを見つめるオレ達のようだ(ご丁寧にニックがメイを追うきっかけはスクリーンに映写された記憶の中に彼女をみつけることだ)。
映画を、とりわけ映画が自分の人生に必要だと強く感じる人々が(いや他人のことは分からない)、オレが映画を観ている時に感じる後ろめたさがここにはある。もし今という現実と向き合いしっかり生きていたらこんなに(それこそ今はあふれるほど観れる!何回も!好きなところだけでも)映画は必要ないのではないかと。だがそこには現実以上に現実と感じるほどの快楽があり恍惚がある。
監督・脚本はドラマ「ウエストワールド」を成功に導いたリサ・ジョイ(Lisa Joy)。本作はコロナ禍によって公開が延期され、公開されると同時にストリーミングサービスHBO MAXで配信も同時にされるという不運にみまわれ興行、批評とも芳しくない。だけれども本作には真実のある一面が描かれてしまっている。それは美しさや楽しさといったものではないかもしれないが。
レミニセンス(REMINISCENCE)
監督:リサ・ジョイ(Lisa Joy)
amazon prime video 他各種配信サイトで配信中(2023年11月)