映画「モガディシュ 脱出までの14日間」のシーンの模写。ドライバーが車内から警官に向かってIDを提示している

DESTROY ALL WATCHLISTS 第5回「モガディシュ 脱出までの14日間(2021)」

1990年、国連加盟を目指す韓国、北朝鮮両国はアフリカ諸国の票のとりまとめを期待しソマリアの首都モガディシュでのロビー活動を活発化していた。それはお互いへの妨害活動へエスカレートするほどだった。しかし各地で蜂起していた反政府軍が遂に首都に到達し政府軍と戦闘状態へ突入する。北朝鮮大使館は暴徒に襲撃され大使館職員とその家族は戦場へ放り出されてしまう。そこで北朝鮮のリム・ヨンス大使(ホ・ジュノ、허준호)は韓国大使館へ助けを求めるのだが……という実話を基にした映画が『モガディシュ 脱出までの14日間』だ。

タイトルの後、チョ・インソン(조인성)演じる韓国の参事官、カン・テジンがソマリアに入国するところから映画は始まる。長い入国審査の列を横目に彼はAK47を構える警備員に外交官旅券を見せゲートをゆうゆうと通過する。これは彼の持つ肩書きのパワーを示すと同時に肩書が彼にその行為を要請していることだとも言える。彼に限らず登場人物の振る舞いは彼ら、彼女らの職業、立場から半自動的に導き出される。
糖尿病なのに子供を祖国に置いて外国でロビー活動をする、公務員だから辞令なしには戦場になった職場から離れられない、戦場に家族ごと投げ出されても南のやつらに助けを乞うことなどあってはならない、北の人々を助けるなら先ず彼らを思想的に転向させなくてはならない、etc,etc。

たいていのことはそれで問題ないのだろう。むしろ積極的にそう振舞ったほうが社会的には有利なのかもしれない。しかし常に“オレは韓国の参事官だ!”と言っていた(こんな台詞なかったかもしれないが)カン・テジン参事官もその肩書で他人にさせていたこと、自分がやってきた事が映画が進むにつれどんどんできなくなっていく。どこかで社会や肩書き、それこそ人生にどうしたってまとわりついてくるものがあなたに強いてくることを振り切って自分自身の行動をしなくちゃならない、せざるを得ない時が来る。

この映画には人が自分自身になる、眼の前の人に自分はどうしたいのか、するのかという一瞬が映っている。そしてそれだけでは解決できない現実社会のままならなさも。

韓国映画「モガディシュ 脱出までの14日間」をポスター風に描いたモノクロイラスト。手前に韓国大使らと北朝鮮大使らが対峙しており後ろには反政府軍を歓迎するソマリア国民が描かれている。イラスト上部には韓国語の映画タイトルと車を運転する男のアップ。

モガディシュ 脱出までの14日間(모가디슈)
監督:リュ・スンワン(류 승완)

amazon prime video 他各種配信サイトで配信中(2023年12月)