高島鈴のゲームログ②(魔法使いの約束)

※最初はほかのゲームと合評にしようと思ったのですが、長くなったので単品でまとめることにしました。自分がこんなにハマると思わなかった。

●魔法使いの約束

ノリで「批評して欲しいコンテンツを教えてくれ」と書いたお題箱を設置したら「魔法使いの約束」と入れてきてくれた人がいて、その影響でゲームをインストールしたのが始まりだった。

舞台は人間と魔法使いが生きる異世界。この世界では年に一度、〈大いなる厄災〉=月が世界を滅ぼしに襲ってくる。月に抵抗できるのは五つの国からそれぞれ選ばれた「賢者の魔法使い」だけで、この選ばれた魔法使いたちを統括するのが異世界から召喚される人間=賢者だ。主人公は賢者としてバラバラの魔法使いたちをまとめ、厄災の襲来に備えなければならない。

ゲームシステムははっきり言ってミニゲームの集合体という感じで、そこまで面白いとは思えなかった。ガチャで出たカードを育成し、育成したキャラクターで厄災に対峙する(初回のガチャは何度でも引き直しができるので、狙ったキャラのSSRが出るまで挑戦が可能である/ただしその後の排出は渋め)。育成ステージはそれなりに多彩だが、作業ゲーという印象が強い。

面白かったのはストーリーの方だった。実は最初は若干舐めていたというか、あまり真面目にストーリーを読む気はなかった。ソーシャルゲームのストーリーが面白いと感じた経験が非常に少なかったからである。だが気がつけば私はまほやくのストーリーをじっくりと読み、果ては読み返してすらいた。

その大きな理由として、キャラクターの魅力が挙げられる。

人間よりはるかに強い力ととてつもなく長い寿命を備えた魔法使いは、人間に頼られながらも恐れられている。月と対峙する賢者の魔法使いならばなおさらで、人間は魔法使いなしには生きていけないのに魔法使いに対して差別的な振る舞いをする。魔法使いの側も、人間との共生を望む者から全く人間の生き死にに関心を寄せない者までさまざまだ。しかしおのおののバックグラウンドに、長い命と人と違う力を手にしたことへの複雑な思いがうずまいている点では共通している。

とにかく長命のキャラ(数百歳、数千歳もいる)が多いのがよい。なぜよいかと言えば、まず「子どもではないこと」がキャラに向き合うに当たって安心材料になるから、そして長い時を生きているがゆえにキャラクターの人生の歴史が非常に多様になっているからである。

後者に関して、たとえば高校生ばかり出てくるゲームだと、どうしても家族や生育環境の問題がストーリーの重心になるか、無視できない問題として浮上しがちである。いや、別に高校生に限らない、人間のたった百年弱の人生では、やはり「生まれ育ち」はどこまでもついて回ってきてしまう。

だがまほやくの長命キャラクターは、家族のことや生まれた土地のことをほとんど覚えていなかったり、覚えていてもそこに全くこだわりを持っていなかったりする。それがまず「生まれからの解放」を感じさせてくれて、心地よかった。逆に長い長い時間を生きているが、あるいっときのことを強烈に記憶していて、今もそこに囚われている、という人物もいる。あるいは数百年単位の繋がりを持ったあまり、友情/因縁がこじれにこじれてしまったキャラクターたちもいる。魔法使いの長いパーソナル・ヒストリーの中で、重心の置かれる対象がそれぞれ異なっているのを見ると、人間の時間軸から外れた道理が感じられて開放感がある。長命キャラ大好き。

そして厄災戦に対するモチベーションがバラバラ、もっと言えば総じて低めなのもよかった。私はソシャゲのカードを強化したときなどの「もっと強くなれる!」的なボイスが心底苦手で、ミッションに対して努力・やる気・熱意を燃やすテンションを前にすると精神が疲弊する。だがまほやくのキャラクターの厄災に対する心情はわりと「来ちゃうからしょうがない」という感じで、みんなわりと素直に面倒くさがっている。好戦的なキャラでも厄災と戦うことそのものを喜んでいる者はほぼいない。そして育成後のボイスも衣装に対するコメントが主で、聞いていてストレスが少ない。さらに言えば育成のミニゲームで、どんなアクションをしても「休む」以外の行動をすると基本的に全部体力ゲージが削られるというのもよかった。「昼寝」とか「お茶会」といったアクションですらキャラクターは疲弊する。わかる、わかるよ。

この全体的なパッションの薄さも、自分にとってはプレイしやすいポイントだったと思う。

最後に一番好きなキャラであるムル・ハートの話をしておきたい。ムルは西の国の出身、およそ一五〇〇歳の魔法使いで、かつては哲学者、天文学者、数学者、鉱物学者等々の無数の肩書きを持つ大天才だった。だが〈大いなる厄災〉=月に恋をし、月に接近しすぎたことで魂が砕け、人格が変わってしまった。魂が砕けて獣のようになってしまったムルは、数百年来の友人である魔法使い、シャイロックによって育て直される。

そもそも自由奔放な研究者肌のキャラクターが私は大好きなのだが(ファイアーエムブレム風花雪月のリンハルト=フォン=へヴリングも大好き!!!)、それに加えてムルが月と恋愛しているところに強く惹かれた。まほやくのイベスト(ほとんど読めていないが……)には塔と恋をする魔法使いなど、ノンヒューマンとの恋愛が当たり前のように出てくるのだけど、ムルはその代表格である。周囲も月との恋を難儀なものとして扱いこそすれ(相手が厄災なので)、その慕情を軽んじることはない。まほやくで最初にプレイすることになるエリア「未開の天文台」のストーリーがちょうどムルと月の恋の話なので、最初から心を掴まれた。

シャイロックとの因縁も魅力的である。シャイロックはムルと同年代の魔法使いにして酒場の主人だが、ムルがかつて魔法の力を機械に応用させて西の国に産業革命を起こし、自然豊かだった故郷を荒廃させてしまったことを長い間憎んでいる。だが同時に結果を考えずに好奇心ひとつで行動を起こす天才学者たるムルの「ありのまま」を人として尊重・敬愛しており、ムルの行動を諌めきれずにいた。

この「愛憎」関係にあるがゆえに、シャイロックは魂の砕けたムルを自らの手で自分のいいように育て上げたことに葛藤している(他者たる自然に対して身勝手に人の手が加えられることを拒んできたはずの自分が、ムルを自分の好きなように作り替えてしまったのではないか?)。ムルもムルでシャイロックの葛藤、自分に対する愛憎を深く理解していて、それでも自分に関わり続けるシャイロックを興味深いと感じている。ふたりは作中で「愛憎の二人」と称されるわけだが、この愛憎とは主にシャイロックのものなのだ。このアンバランスさも含め、二人の関係はとても残酷で、かつ愛おしい。

ムルはシャイロックに与えられた「月に恋して身を滅ぼす迷惑男ムル」という称号を喜んで受け容れている。シャイロックは「おまえもいつかムルを殺すのか」と問われ、黙りこくる(別の場面ではムルからシャイロックへ、俺はきみより強くて賢いんだからそんなことはできない、と言い渡されもする。残酷!)。

あまりにも重い。重い関係が大好きなので、私はムルとシャイロックの関係性が大好きです。

これを読んで興味を持った方、ぜひやってみてください……。